でっかい牛、ひとりで解体できる?(お腹の中編)

こんにちは、獣医が作るドール服 ケモミミ本舗 たぬぬです。

今回はでっかい牛、ひとりで解体できる?の続きです。

 

牛の解体方法には大学ごとに作法?のようなものがあり、出身大学によりやり方が少しずつ違うのが面白いです。
しかも病理学教室出身者は解剖に矜持のようなものも持っているのでさらに面白いです。

例えば、胸腔(胸の中)から開くのか、腹腔(お腹の中)から開くのか。

大概は刀(とう、と読みます)からの汚染を防ぐために胸腔から開くことが多いのですが、実は私は大学で腹腔から開く方法を教えられたので、これに慣れるのにしばらくかかりました。

刷り込みって怖いですね。

例えば鶏でもお腹から開くのか、背中から開くのか、肋骨を肩側からむしり取るのか、腹腔側から上に持ち上げるのか、いろいろ作法があります。
まぁ、これは術者の好みですね。
個人的な好みなんですが、胸腔を開くときに肩からガバッと手前に肋骨を引いて開けれると汚染も少なく気持ちもいいです。

すみません、牛から離れてしまいました。

どちらから開けるにしても前回もお話ししましたが、作業は繊細に進めなければいけません。
汚染(この場合の汚染とは目に見えるもの見えないもの全てを含んだ汚染です)するとその後の検査にも影響が出てくるので、最低限の汚染で済むよう作業を進めていきます。

なんせ牛(この場合はオトナの牛)はでっかいので、中身もでっかいです。

皆さん牛の胃が4つあることはご存知だと思うんですけど、それぞれの大きさがどれくらいあるか知ってますか?
(食道に続いて、第1胃、第2胃、第3胃、第4胃とつながっています。)
第1胃はとても大切な働きをするだけあって(説明はまた別の機会に)でっかいです。
小柄な人なら中にすっぽり入れるくらいでっかいです。

そんな中にみっちり食べたエサが詰まっています。

草を消化するのは大変なので「反芻」という胃から少しずつ口の中に戻してもぐもぐして胃に戻す、という動きを繰り返して少しずつ消化していきます。
胃の中(内側の胃壁)を観察するためにはこの大量のエサを胃から出す必要があります。
(もちろん消化具合も観察します。出すときも胃を傷つけないようにします)
胃の中にあったものなのでものすごい発酵臭に耐えながらスコップですくい、バケツに移し、一輪車に乗せ、焼却施設までえっちらおっちら運びます。(無くなるまで)

こうやってひとつひとつ胃から腸を観察していきます。

内臓は背中の部分と膜状のものでつながっていて、そこにリンパ節もくっついてるのでそれらもひとつひとつ確認します。

考えるだけで時間かかってイヤになりますね。

 

お腹の中には他にも大切な臓器がたくさんあります。
例えば肝臓、腎臓、生殖器、膀胱。

ささやかな管の部分のねじれが重大な病気につながっていることもあるのでざくざく切り刻むのはご法度です。
少しずつ、かつ大胆に細分化して観察していきます。

あ、ちなみにこれらは伝染病が否定されてからのやり方です。

伝染病が疑われる場合は逆に最小限の切り口だけで病変が確認されやすい臓器だけを切り出して検査にかけたりします。
とにかく早さが求められます。
これはなぜかというと、もはや個体だけの問題ではなくなっており、群、ひいてはその地域全体に影響する問題となるために迅速な診断が必要となるためです。

解剖に関しては獣医師としてある程度割り切りが必要になるのですが、何十年やっても私は慣れませんでしたね…
(得意なのは解剖なんで矛盾してますけど)